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「沈まぬ太陽」を観ました [空の旅]

 JALにとっては泣きっ面に蜂?

話題の映画「沈まぬ太陽」を観て来ました。日頃、映画というメディアとはほとんど付き合いのない私ですが、この作品は是非観たかった。
山崎豊子著の原作を読んだのはちょうど1年前。暇つぶしになんとなく手に取った文庫本がこの作品でした。5分冊になっているとも知らずに。読みだすと止まりませんでした。

沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)


この作品の舞台になっているのは日本のナショナルフラッグキャリアである国民航空=NALですが、もちろんモチーフは日本航空=JALです。御巣鷹山事故などという実話が織り込まれているので疑いの余地はありません。

既にマスコミが報じているとおりこの作品の映画化にあたっては数々のハードルがありました。もちろんJALからの強力な圧力です。各メディアに大量の広告を出稿しているJALだけにご機嫌を損ねると営業上少なからぬ打撃を受けることは間違いありません。この作品を連載していた週刊新潮は一時JALの機内誌から姿を消したといいます。

◆JAL批判の映画ではない
今回の映画化にあたってもJALは法的措置をもちらつかせたと言われています。不幸にしてJALの経営危機が連日マスコミを賑わせている時期だけにJALも必死なのでしょう。まさに泣きっ面に蜂だなと私も思っておりましたが。
ところが実際に観て感じたのは決してJALバッシングの映画ではないということ。もちろん大筋ではJALの特殊な成り立ち故に安全性をないがしろにし、ついには御巣鷹山事故で520名の人命を失うという単独航空事故としては史上最悪の結果を招来してしまう流れはきちんと描かれています。ただ、強く打ち出されているのは恩地元、行天四郎という対極的な組織人の対比であり、二人を取り巻く人たちとの人間模様です。断じてヒステリックにJAL批判を繰り広げているわけではありません。むしろ「組織を守る」という美名のもと数々の非道な行いに手を染めていく組織人の愚かさを浮き彫りにしていると思えてなりません。

◆公開のタイミング
このような内容であればJALとしてもそこまで目くじらを立てて反発することもなかったのではないかと思います。映画化の話が持ち上がった時点ですんなり実現していたらこんなに最悪のタイミングで公開とはならなかったでしょう。逆に考えると経営危機に瀕し、広告主としての威光が低下した今だからこそ制作が可能だったのかも知れませんが。

◆本当に訴えたかったこと
ただ、私の思考力がお粗末なのか、単にある組織を批判するとか、特定の人物の生きざまにスポットを当てるというだけの映画ではないようです。なにか深く、重いものがある。人命尊重とか安全第一とか一言では表せない何かが。それが何なのか今の私にはわかりません。なにかベールに包まれているようでその正体が見えません。ある日突然答が浮かび上がってくるのかもわかりません。したがって、「感動した!」などと率直に言えないのが正直な感想です。
ぜひ、みなさんもご覧いただきこの映画が本当に訴えたかったものはなにか考えていただければと思います。

◆雑感
数年に一度しか映画を見ない私が評論家ぶっても仕方がありません。ここからはちょっとマニアックな視点で見た感想をお聞きいただきましょう。

キャスト
原作にどっぷり浸った者としては自分の中で思い描いた登場人物のイメージが映画化にあたってそのとおりにキャスティングされているかどうかが気になるところであります。
今回は全体的に山崎豊子作品の常連さんが多く起用されているのかな。特に唐沢版ドラマ「白い巨塔」のキャストとだぶる部分が多かったように思います。

恩地元=渡辺謙 違和感ありません。私が、この人物について明確な実像を確立し切れていないのかも・・・・。

行天四郎=三浦友和 意外。もっとクールで細身の人物を想像していました。でも、観ているうちに抵抗はなくなりました。

恩地りつ子=鈴木京香 もっと地味で耐える女性をイメージ。鈴木では華やか過ぎる。華麗なる一族では万俵大介の愛人高須相子役で登場。

国見会長=石坂浩二 たいへん意外。モデルは鐘紡会長だった伊藤淳二氏。石坂浩二ではスマート過ぎ。はじめは主人公を疎んじる旧経営陣の一人かと。実際の伊藤氏の姿を知っているのが影響しているかも。白い巨塔では第一内科東教授。

堂本社長=柴俊夫 イメージが違う。原作では何度も爬虫類のように無表情と表現されている。柴俊夫では爬虫類どころか少々脂っこいのではないか。

龍崎一清=品川徹 伊藤忠相談役などを歴任した瀬島龍三氏がモデル。品川は少々クセが強過ぎる。白い巨塔では病理の大河内教授役。

八馬忠次=西村雅彦 イメージが違う。恩地をハメた張本人ともいうべき人物。もっとメタボな油ギッシュな人物を想像していたが。

鈴木夏子=木村多江 御巣鷹山で夫を失う。大阪弁も無難にこなし適役か。白い巨塔では製薬会社MR林田加奈子役を好演。

恩地純子義父=桂南光 意外な大抜擢。登場するのは3分程度だが一目見て大阪を直感させる人物ということで白羽の矢が立ったとか。大阪での試写会では笑いが起こったらしい。もちろん劇場ではそんなことはなかった。

他にもいろいろとありますが、このへんで。

なお、登場人物については「沈まぬ太陽」公式HPをご覧下さい。
http://shizumanu-taiyo.jp/


ロケ

ホテル=リーガロイヤルホテル東京。NAL創立30周年記念パーティーの会場や行天と三井美樹との密会の場所として登場。白い巨塔他ドラマでも度々登場している。

空港=やはり日本の空港では撮影できなかったのかエンドロールではバンコク・ドンムアン空港などの名が出ている。

国民航空本社=JALの旧本社である鉄鋼ビルをイメージさせるクラシックなビルが使われているが、ビル名不明。

航空機=B747、DC8などが登場するがいずれもCGらしい。なかには曲芸まがいの飛び方も見られる。なぜかJALには採用されなかったトライスターの実機らしき姿も。


休憩時間10分をはさみ4時間近い長丁場。渡辺謙をして舞台あいさつで男泣きさせたほど数々の障壁を乗り越えての公開。それだけに気合いを感じる作品で腰の痛みも気にせず時間を忘れて観ることができました。
作品中にも描かれている国民航空による無軌道なホテル展開。折しもJAL再建案の中でもホテル部門の売却が取り沙汰されています。ホテル屋としては少なからず複雑な気持ちも抱きつつ観賞したのでありました。
そうそう、最近福知山線脱線事故に絡んでいろいろとボロが出ているJR西日本の経営陣の皆さんにも是非観ていただきたい作品です。


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▲ワーナーマイカルシネマズ茨木

今回久し振りに足を運んだ映画館は大阪モノレール宇野辺駅から歩いて10分少々のワーナーマイカルシネマズ茨木。うちからだと同じモノレール大日駅前のワーナーマイカルシネマズ大日の方が断然便利なんですが、時間が合わずに茨木へ。おかげで今まで素通りしていた宇野辺駅に初めて降りることができましたとさ。

 


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コメント 16

夏海

今、テレビ朝日「徹子の部屋」に渡辺謙さんが出演しています(笑)
先週、映画に行った時はまだ公開してなかったけど
私も近いうち観に行こうと思ってますよ~
確かに「白い巨塔」とキャストがダブりますね・・・
今、午後の時間帯に再放送しているので観てます^^;
原作と違うとか、何か違和感を感じるのも分かる気がします。
日航のホテル部門の売却も気になりますね。。。
海外などで、日航のホテルに泊まる事もあるのですが
泊まる理由として言葉が通じるとか安心感もあって選んでましたからね。
「沈まぬ太陽」早く観に行きたいなと思います!

by 夏海 (2009-10-30 13:54) 

ホタルの館

映画やドラマのロケ地ばかりを紹介したサイトを以前、見たことがあります。
by ホタルの館 (2009-10-30 14:49) 

まるたろう

この記事を読ませていただいて、ぜひこの映画を見に行きたいと
思いました。
by まるたろう (2009-10-30 20:11) 

manamana

渡辺謙さんが記者会見で感激して泣いていました。
それだけの思いを込めた映画、一度見てみたいと思います。
by manamana (2009-10-30 23:37) 

サットン

夏海さん

珍しく映画を観て来ました。何年ぶりかな・・・。とにかく原作にはまっていたので。それだけにキャストに関しては言いたいことはありますが、仕方ないですね。
白い巨塔に継ぐ山崎-唐沢の不毛地帯は視聴率がイマイチとか。私も乗り遅れています。これからでも観なければ。
JALホテルも気になりますが、仕方ないかな。急膨張し過ぎた結果かも。売却が打ち出されたタスクフォースの会場がANAインターコンチネンタルっていうのも皮肉です。
徹子の部屋見れば良かった・・・
by サットン (2009-10-31 14:13) 

サットン

ホタルの館さん

最近ロケ地巡りがひそかなブームですね。「ロケーションジャパン」なんていう雑誌も出ていますし。自治体もロケ誘致に懸命で○○フィルムコミッションとか××ロケーションサービスなどを結成してサポートしています。私もエンドロールの「撮影協力」が気になります。
by サットン (2009-10-31 14:21) 

サットン

まるたろうさん

映画に疎い私が4時間近くも集中して観ていたんですから面白いはずですよ。ちょっと腰が痛いですが。
神戸市民としてはJALの行方も気になりますね。
by サットン (2009-10-31 14:27) 

サットン

manamanaさん

この映画の制作にあたっては並々ならぬ苦労があったようです。過去2度映画化が発表されながら挫折しているほどですから。取材手法に問題があるなど批判もありますが、一見の価値ありの大作かと思います。
by サットン (2009-10-31 14:38) 

りゅう

ワーナーの茨木懐かしいです。
よーくそのそばを通っていました。

映画が面白かった様でなによりですが、
原作とイメージが違うっての良くある事ですね。

JALだけじゃないの理解していますが企業は
人のためとなれずコスト優先なのが悲しい限りです。


by りゅう (2009-10-31 22:15) 

takechan

結構、メッセージ性の強い映画のようですね。
昭和を生き抜いた日本の男達の、今は忘れられてしまった
国を思う熱いハート、を思い出す映画、と聞いてます。
by takechan (2009-10-31 22:35) 

ドラもん

地元松本空港のJAL撤退が発表されています。映画を観てみようかな、サットンさまの記事を読んで人間ドラマを知りたくなりました。
by ドラもん (2009-11-01 10:42) 

サットン

りゅうさん

マイカル茨木は幹線交通網の結節点に位置してるので目立ちますね。でも駅からは半端に遠くて。まあ、元JTの工場ですから。
読者の思い入れにいちいち付き合っていたら映画なんて作れないでしょうけど(笑)ただ、全5巻を1本の映画にまとめるのはかなり苦しい作業だなあと感じました。
官僚にしろサラリーマンにしろなぜそこまでして組織防衛にはしるのか?組織ってそう簡単に消えるものではないと思いますけどね。

by サットン (2009-11-01 14:37) 

サットン

takechanさん

強烈なメッセージを含んでいますね。私はまだ消化しきれないでいますが。山崎作品はすべてそうですね。白い巨塔、華麗なる一族、不毛地帯等々。読んでいて恐ろしさすら感じます。当然関係方面からは猛烈な攻撃を受けるわけですが、それでも書き続ける氏の作家魂には敬服するばかりです。
by サットン (2009-11-01 14:46) 

サットン

ドラさん

JALが撤退すると松本空港は定期路線を失うんですね。こんなことになるんならJASは合併しない方が良かったかも。
この映画、難しいメッセージも含んでいますが、人は決して一人で生きてるんじゃないということをあらためて認識させられました。
by サットン (2009-11-01 14:57) 

硬券屋

秋らしくなりましたね。
そうそう、この夏に安全啓発センターに行ってきましたよ。ご存知の方は多いと思いますが必見かと思います。現在は移転の為に休館している様ですが来月より開館するそうです。
内容が内容だけにまた機体の残骸、遺品、曲がった座席等々の展示で随分、ズッシリとした時間でしたが、エアラインという華やかな会社の中でこの様な地道で辛い仕事をしている説明をして頂いた女性の方には頭が下がる思いです。 東京に起こしの際には是非どうぞ。

http://www.jal.com/ja/flight/safety/center/
by 硬券屋 (2013-11-09 19:01) 

サットン

硬券屋さん

JALというと777の後継機がA350に決まったそうですね。やっと国からのボーイング押し付けから解放されたってことでしょうか。思えば御巣鷹山事故はボーイングの杜撰な修理が原因といわれ、最近では787のトラブルに振り回されたJALとしては当然の決定かと。
鶴丸印のエアバスに乗って安全啓発センターに行ってみたいものです。
by サットン (2013-11-11 18:38) 

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