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続 知られざる奈良のホテル事情 [ホテル(その他)]

◆はじめに
この記事の前編にあたる「知られざる奈良のホテル事情」をアップしたのが昨年2月16日。ほとんど文字ばかりのお堅い内容にも関わらず今もコンスタントにアクセスをいただいてるのには私も驚いている次第である。みなさん余程奈良での宿泊をめぐって疑問、不満をお持ちのようである。こうなってはみなさんのご期待、ご要望(笑)にお応えせねばなるまい、と多分に不遜な書き出しになってしまったがお許し願いたい。
前編では「奈良という町はホスピタリティに欠けている」、「あり余る観光資源の上にあぐらをかいている」と指摘し「まかりとおる殿様商売」と表現したが、奈良ではこういうケースを“大仏商法”と呼んでいるようだ。
そんな奈良がこのところ脚光を浴びている様子である。来年に開幕を控えた平城遷都1300年祭とそのキャラクターに祀り上げられてしまった「せんとくん」が話題の中心である。「せんとくん」なんてそもそもそのデザインの醜悪さから県内で大ブーイングを巻き起こした張本人ではないか。それが何かの拍子にキモカワイイということになり「ひこにゃん」に迫るゆるキャラの成功例ににのし上がってしまったのである。良い話のない奈良の観光業界にとってはまさにヒョウタンからコマである。しかし、そんなことに浮かれていられないのが世界的観光都市奈良の現実なのだ。
前編で取り上げた奈良県、奈良市双方による泥縄式のホテル誘致が私も予想しなかった悲惨な状況に陥っているのである。

◆奈良市のホテル誘致は泥沼の失敗劇
前編で紹介したとおり奈良市はJR奈良駅西口の再開発用地にホテルを誘致、結果コートヤード・バイ・マリオットの進出が決まった。297室の宿泊特化型ホテルだという。ところが、事業主である新興マンションメーカー㈱ゼファーが昨年8月に経営破綻してしまう。慌てて奈良市長は同社トップに事業の継続を直訴し会社側も「ホテルは思い入れのある事業であり継続したい」と回答していたが、思い入れで事業など継続できるはずもなく撤退。1300年祭を控え焦る奈良市は地元不動産業者などが出資するJR奈良駅前ホテル開発㈱に事業継続を託すも資金調達に手間取るなどして1300年祭開幕までに開業させることは不可能と判断、結局このホテル誘致事業は白紙撤回となってしまった。

画像 071m.jpg
JR奈良駅前のマリオット進出予定地だった土地 駅前広場を挟んで反対側(画像手前)には同じく市が誘致したホテル日航奈良が立地している。

実は市によるホテル誘致には3社が手を挙げており次点にはベストウエスタンを看板にした案が選ばれたそうだが、今さら1位案が破綻したので次お願いしますといえる種類のものではないだろう。

そもそもこのホテル誘致には不可解な点がある。対象となる土地は本来百貨店を誘致する予定だったが、進出企業がなく遊休地化していたものをホテル用地に転換したのだ。元々のホテル用地には既にホテル日航奈良(元三井ガーデンホテル奈良)が進出しており空いていたからともう1軒ホテルを持ってこようという発想自体お粗末である。この泥縄式のホテル誘致にホテル日航は「ホテルが増え観光地として魅力がアップすれば良い」と寛大なコメントをしていたが白紙撤回となり内心ほっとしているのではないだろうか。

このホテル騒動が奈良市に与えた影響は大きく市議会が紛糾、この案件が市長と担当政策監(なんだこの役職)の意向のみで進められたとして藤原市長は責任を認め次期出馬を断念している。なにやら安宅産業崩壊劇の内幕を見ているようなさむーい話である。

◆県のホテル誘致も事実上頓挫
市に一歩遅れて奈良県もホテル誘致を展開していたが、こちらは幸か不幸か早期に暗礁に乗り上げているようだ。近鉄新大宮駅近くの県営プール敷地を利用者の反対を押し切り提供したものの何と進出希望は1社のみ。しかも、その企業が資金計画に問題ありということで不適格のレッテルを張られてしまったのだ。市のように泥沼に嵌る前にストップがかかったのは幸運だったかもしれない。
進出企業の再募集を行ったところ折からの不況もあって手を挙げる企業はゼロ。もはや県の意図する1300年祭に間に合うはずもない。事実上お蔵入りと考えてよいのではなかろうか。

このホテル誘致の旗を振った荒木知事は「国賓クラスにも対応できる“外資系”が良い」などと逆指名ともいえる発言をしていたが、現実は思ったより厳しかったようだ。この県知事さん、ホテルに関してはずぶの素人かと思っていたが、なんと元運輸省観光部長!つまりホテル業の元締めでいらっしゃったとのこと。たいへん失礼な思い違いをしてしまったが、中央官庁がいかに現実から遠い所で仕事をしているかを物語る話である。
冬柴前国交相が伊丹空港廃止論をぶち上げた橋下大阪府知事に「素人が口を挟むな」という主旨の発言をしていたが、こうしてみると国交省のお役人たちの方がよほど素人ではないか。

このケースも市の場合と同様自治体の安易なホテル誘致策が気になるところ。用地選定にしても他に空いている土地がなかったので古くなった県営プールをぶっ壊して提供しようという適当なお役所仕事が見え隠れする話である。荒木知事はせんとくんと一緒にはしゃいでいる場合ではないだろう。

◆地に足のついたホテル誘致を
今回のお粗末なホテル誘致失敗劇に共通しているのは遷都1300年祭という一過性のイベントに間に合わせるために拙速な誘致を進めてしまったことである。なぜ世界に冠たる奈良ともあろうものがもっと腰を据えた観光インフラの整備ができないのだろうか。前編で書いたとおり奈良県の宿泊施設整備状況は信じられないことに47都道府県で最低レベルである。観光業の中でも最も経済波及効果の大きい宿泊業の整備は急務である。しかし、今回のように失敗を連発していては元も子もない。優れた立地条件が成功のポイントといわれるホテル業において県・市のようにおざなりな用地選定を行っていたのでは誘致には成功してもその後の運営ではおそらく苦戦を強いられていただろう。たかが一過性のお祭り騒ぎに振り回されるべきではない。かつての「ならシルクロード博が」何を残してくれたのか。そんなことがあったことすら忘れられているのではないだろうか。 


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ホタルの館

新聞報道で見ました。
奈良市長は責任を感じており、今期限りで引退と・・・引責辞任の方向だそうですね。
誘致方法の問題の上に世界的不況の影響が重なって、白紙になったのでしょうかね。
by ホタルの館 (2009-05-26 18:14) 

のり

奈良の宿泊施設、大変なことになっているのですね。たしかに「旅館」は少しばかりあるけれど、「ホテル」ともなれば、少ないですね。私自身は、京都よりも奈良の方が、好きなのですが・・・。
「早朝の奈良」というのは、大変素晴らしい景色なんですけれども、宿泊施設が心もとないと、そうも言って居られませんね。遷都1300年記念行事も、奉祝気分ばかりとは言えなくなってきました。
by のり (2009-05-26 21:30) 

サットン

ホタルの館さん

奈良市長は辞任とまではいきませんが、次期選挙への不出馬を議会で表明し事実上の引責ですね。ホテルを誘致しようとするあまり打つ手が全て裏目に出て泥沼に嵌り込んだようです。こんなプロジェクトが市長と側近だけで進められていたというのが怖いですね。
by サットン (2009-05-26 23:53) 

サットン

のりさん

私も落ち着いた奈良のムードが好きなんですが、行くたびに何かと不快な思いを持ち帰ってしまいます。宿泊施設も大部分が昔ながらの修学旅行相手の個人経営であまり向上心が感じられません。ホテルもまだ暫く奈良ホテルの独壇場が続きそうです。競争原理のはたらかない今の状況を打破しないと奈良は益々通過都市になっていくと思われます。
by サットン (2009-05-27 00:01) 

ファジー

専門家による奈良のホテル分析・・・とても勉強になります。
以前にも記事を拝見しましたが、その後も混沌として一向に推進していないということがよ~く分かりました。
“大仏商法”・・・笑っちゃいました。
by ファジー (2009-05-27 07:38) 

サットン

ファジーさん

過分なコメントをいただき恐縮です(汗)。
奈良は宿泊事情が悪いためどんどん通過都市と化しています。阪神なんば線効果で入込客が増えている今、業界、自治体ともに大仏商法から脱却して欲しいものです。
by サットン (2009-05-27 08:03) 

うたに

大仏商売か・・・うまい。座布団1枚!
突然の急激な不況は予想外の事態だと思いますが、計画自体の甘さも見え隠れしているような。
それにしても、駅前1等地の使い道に行政が混乱しているのは、いただけませんなぁ。。
by うたに (2009-05-27 12:30) 

サットン

うたにさん

大仏商法、かなり昔から使われていたようです。
今回の計画はいわゆるリーマンショック以前に大勢は決していて計画そのもの杜撰さがうかがえます。大仏があればホテルの一つや二つは来てくれるだろうってなところでしょう。おまけに駅前の土地は産廃物が出てきて撤去費用がかさんだり、踏んだり蹴ったりですね。
by サットン (2009-05-27 13:59) 

haru

大仏商法・・・覚えましたっ☆^^
奈良へ行くときはいつも京都に泊まってしまっていたんですが
そういう宿泊事情があったんですね~
いちどゆっくり奈良にも泊まってみたいと思っていたんですけど
今のところいいホテルや宿はないのかしらんっ?残念デス
by haru (2009-05-28 03:22) 

UZ

前編も拝見しましたが、奈良のホテル事情は本当にお粗末ですね。観光名所が多いにもかかわらずです。
もっとも京都や大阪にも近いので、こだわらなくていいかもしれませんが。
by UZ (2009-05-28 06:11) 

サットン

haruさん

奈良で泊まりに行く価値のあるホテルって奈良ホテルくらいでしょうか。ここも私の経験では競争相手がないので胡坐かいてるの丸出し。レストランなんて値段だけは大阪の相場より高い!かくして奈良を訪れる人はharuさん同様京都、大阪に泊まるのであります。
by サットン (2009-05-29 15:12) 

サットン

UZさん

引き続いてのお付き合いありがとうございます。
おっしゃるとおり奈良を訪れる人の多くは京都、大阪のホテルを利用しているのが実情です。泊まりたくても施設がないわけですから。修学旅行すら昔ながらの大部屋を敬遠して奈良は素通りです。
by サットン (2009-05-29 15:18) 

ケイ

奈良は行ったことないけど、奈良は今大変な事態が起きてるんですね。
by ケイ (2009-05-29 22:29) 

サットン

ケイさん

今回の騒動を機に官、民ともに目を覚まして欲しいです。
じゃないと奈良の明日はないと思います!
by サットン (2009-05-30 10:25) 

undo

奈良を目指すにしても奈良"だけ"ということはなく、大阪or京都のついでに観光というのが多い証拠なんでしょう。主たるホテルがなくとも観光客が来てくれてたことで発想自体が甘え体質なんでしょう。
東京にいた時も奈良に行ってわざわざビジネスホテル泊まるくらいなら京都に泊まろうと思いましたし、あっしの中学時代(10数年前)の修学旅行も京都を軸に奈良への日帰り観光でしたよ。
by undo (2009-05-31 11:35) 

サットン

undoさん

確かに京都・奈良は外国人を中心にセットで巡るケースが多いようです。しかし、宿泊地は圧倒的に京都または大阪です。つまり奈良は一番おいしい部分を逃していることになりますね。
ご指摘のとおり奈良に開業するホテルはビジネスホテルばかりですね。マスコミは「1300年祭に照準、ホテルラッシュ」なんて書きたてていますが、こじ付けもいいところだと思います。
by サットン (2009-05-31 12:05) 

お名前(必須)

ピアッツァホテルになりましたね。

結局マリオット ホテルは、奈良に開業しました。
しかも日本初のJWで
by お名前(必須) (2021-08-04 00:19) 

サットン

お名前知らずさん

これはずいぶん古い記事にコメントいただきありがとうございます。嬉しいです。
日本初のJWマリオット開業しましたね! 知事さんもお喜びのことでしょう。
県は富裕層向けホテルの誘致に躍起になっているようですが、客室数全国ワーストの奈良県がまずやることは収容力の向上だと思うんですが。それとビジネスとJWマリオットクラスの中間に位置するホテルが不足しているのが気になります。
by サットン (2021-08-05 19:02) 

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